2026-06-29
【イベントレポート】スズキ×第一ライフグループ×元メルカリが語る「インド高度人材戦略のリアル」〜AI時代に日本企業が選ばれるために〜

2026年5月26日、インド大使館にて第4回「INDIA CONNECT」が開催されました。
INDIA CONNECTは、住友不動産株式会社が立ち上げ、継続開催してきた日印ビジネスマッチングイベントです。第4回となる今回はインド大使館が主催し、住友不動産がパートナーとして参画。会場となったインド大使館のイベントホールには、インド人材採用に関心を持つ企業担当者で盛況となりました。
住友不動産は、インド・ムンバイにおいて、2019年以来、単独で用地を取得し、開発、リーシング、管理まで一貫して行う「東京同様の当社オフィスビル事業」を推進しています。現在、インド・ムンバイにおける物件ポートフォリオは2大都市で合計5物件、総事業費は1兆円規模、敷地総面積は約3.7万坪、延床総面積は約45.5万坪と大規模に展開しております。今年の秋にはBKC地区において第1号計画の「BKC 1ST PROJECT 」が竣工予定です。
第4回のテーマは「日本企業の未来を拓くインド高度人材戦略」。インドで40年以上事業を展開するスズキ株式会社からは鮎川氏、100年の歴史を持つ金融機関でDX変革を推進する第一ライフグループのナンダ氏、そしてインドGCCの立ち上げを率いた元メルカリ GroupCTOの若狹氏という、業種も立場もまったく異なる3名が、インド高度人材活用のリアルを語りました。
【登壇者】
• 鮎川 堅一氏 スズキ株式会社 参与
• ラジャン・ナンダ氏 第一ネオ生命保険株式会社 兼 第一ライフテクノクロス株式会社 常務執行役員 Chief Information Officer&執行役員 Chief Digital Officer
• 若狹 建氏 元メルカリ執行役員Group CTO / 合同会社桜文舎 代表社員CEO
• 西山 直隆 Tech Japan株式会社 代表取締役CEO(モデレーター)
西山(Tech Japan): 今日はまず「なぜ今インドなのか」をテーマに話を進めていきたいと思います。40年以上前にスズキさんがインドへ踏み出した背景から、今に至る軌跡を鮎川さんにお聞きします。
鮎川氏(スズキ): スズキのインド進出は44年前のこと。当時のスズキは、日本の自動車メーカーの中でも規模が小さい会社でした。「どうすればトップになれるか」を考えたとき、誰もまだ本格進出していないインドに可能性を見出したのが出発点です。

2013年にインドMaruti Suzuki India(マルチ・スズキ・インディア)の社長に就任。2020年から2022年にインド自動車工業会(SIAM)の会長を務めた。帰国後はスズキ副社長としてインドのオペレーション全般を統括。2025年4月1日からインド事業全般を担当する参与となる。
そのご縁から40数年、新工場の建設を重ね、最近はEV生産にも着手しました。現在は四輪・二輪に加えてバッテリー製造、ベンチャーキャピタルによるスタートアップ支援まで展開しています。GCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)の設立準備も進めているところです。
人材交流においても、2010年頃から現地社員を日本に招くエンジニアリング研修プログラムを始め、現在は年間100〜200名が来日。半年間の日本語研修を経て、帰国時にはほぼ流暢に日本語を話せるようになっています。インド工科大学(IIT)をはじめとするトップ大学からのインターンシップ経由で、累計50名程度がスズキ本社の社員として入社しています。
西山(Tech Japan): 日々インドの方々と接していると、日本へのリスペクトを強く感じます。スズキさんをはじめ先人の方々が地道に築いてきた信頼の上に、今の私たちがいると痛感しています。
西山(Tech Japan): スズキさんは製造業として長年かけてインドとの関係を深めてきました。一方で、最近注目を集めるのが、鮎川様から話があがりましたGCCです。メルカリは2022年にGCCを設立されました。若狹さん、「なぜインドで、なぜGCCか」をお聞かせください。
若狹氏(元メルカリ): シンプルに言うと、「質と量」で考えればインド以外の選択肢がなかったということです。私はGoogleに長く在籍していましたが、私の体感で言うとシリコンバレーの職場はインド人・中国人がそれぞれ3割程度を占めていて、インド人と働くことはすでに「当たり前」でした。Googleをはじめとするビッグテックはとっくにインドに数千〜数万人規模の拠点を持っています。

富士通研究所、Sun Microsystems、ソニーでソフトウェア開発に携わる。その後GoogleにてGoogle MapsおよびAndroid OSの開発に携わる。Appleでのシステムソフトウェア開発、LINEでのLINEメッセンジャークライアント開発統括を経て、2019年よりメルカリに参画。執行役員としてCTO Marketplace、Group CTOを歴任。2022年からはMercari India取締役Managing Directorも兼務。2024年に退任後、現在はTech Japanをはじめ数社の技術アドバイザーや技術顧問を務める。
メルカリが日本・世界中から採用しても採用力が追いつかなくなったとき、「どこで採りに行くか」を考えると、IT業界においてインドはもうデフォルトの選択肢です。そこに「なぜインドなのか」という疑問は、正直ありませんでした。
西山(Tech Japan): 「むしろ遅いくらい」という感覚ですね。
若狹氏(元メルカリ): そうです。待っている場合ではない、というのが実感です。
西山(Tech Japan): メルカリさんのようなテック企業であれば、GCC設立のイメージはわきます。しかし100年以上続く日本を代表する金融機関の1つであり、情報セキュリティにも厳しい基準を持つ第一ライフグループさんが昨年GCCを発表されたことは、非常にインパクトがありました。ナンダさん、その背景を教えてください。
ナンダ氏(第一ライフグループ): 金融庁からのDX推進要請もあり、業界全体としてDXを進めたいという意志はありました。でも「本当にできているか」と言えば難しい状況です。最大の原因は人材です。「日本にそもそもDX人材が十分にいるのか」「人材がいたとしても金融機関に来てくれるのか」という二重の問題があります。

インド生まれ。インドの大手IT企業でキャリアをスタートし、2012年に来日。日本の金融機関でのIT・DX推進を歴任後、第一ネオ生命保険のCIOとして入社。同社でITエンジニア採用制度を一から構築した実績を持つ。
その解決策として考えたのが、業務のアウトソーシングではなく、DX人材とAIネイティブ人材を自社に取り込むためのケイパビリティセンターです。それがGCC設立の経緯です。グループ社長からも「日本国内でもテック人材を積極採用せよ」という強い意志があり、私自身もその流れで採用されました。
西山(Tech Japan): インド側にケイパビリティ・センターを持つだけでなく、本社側もそれを活かせる人材・環境を整えていく。ナンダさんからの重要なメッセージですね。
西山(Tech Japan): ビッグテックを中心に採用抑制や解雇のニュースも出ています。「AI時代に人材が不要になる」という議論もある中で、若狹さんはどう見ていますか?
若狹氏(元メルカリ): 「AI時代だからこそインドが有利」だと考えています。
AIはアンプリファイヤー(増幅装置)です。足し算ではなく掛け算です。ケイパビリティが高ければ10倍・100倍に増幅できる。逆に、弱みもアンプリファイされてしまう。だからこそ、ケイパビリティをしっかり作ることの重要性が今まで以上に高まっています。
加えて、インドの方の変化への「アダプタビリティ(適応力)」の高さも大きいです。先の読めない時代において、状況変化に柔軟かつスピーディに対応できるインド人材が組織にいることは、強みになります。
西山(Tech Japan): アウトプットではなくアウトカム(価値の創出)が重要であり、そのためにAIを使いこなせる高度な人材が必要。その中でインドの方々は柔軟性とスピード感を持ってキャッチアップができる、だからAI時代においてもインドと組む価値がある、という理解でよいですか?
若狹氏(元メルカリ): はい、まさにそうです。
ナンダ氏(第一ライフグループ): 弊社もAIを活用することで2030年に向けたゴールを前倒しで達成できないか、という観点でGCCを進めています。私の個人的な見方ですが、インド人には「今日より明日が良くなる」という信念が非常に強い。両親・家族も支えなければならないというプレッシャーもある中で、常に前へ進もう、成長したいという意欲が強い。それが変化への対応力にもつながっていると思います。
鮎川氏(スズキ): 明日への希望と前進する活力は非常に大きい。一方で、製造業のような「現場のリアリティ」への対応が求められる分野ではIT系の分野と事情が異なります。重要なのは「自社にとってIITの学生が本当に必要か」を問い直すことです。自社のビジョン、開発プロダクト、必要なスキルを明確にした上で、インドには様々なレイヤーの人材がいますから、その中でマッチングを考えるべきです。
西山(Tech Japan): 皆さんのお話から高度インド人材の重要性、必要性について理解できました。。しかしグローバル企業は既に理解し世界的な人材獲得競争が行われています。その中で、日本企業はどのようにインドの高度人材に対して魅力づけできるか。ナンダさんが日本企業を選んだ経緯と、選ばれる会社になるために日本企業は何を変えるべきかをお聞かせください。
ナンダ氏(第一ライフグループ): 一言で言えば、「変化を見せること」です。「この会社は変化に向けて動いているよ」というメッセージを発信することが出発点です。
よくある失敗パターンは、ただ単にチームの人手が足りないからインドから補充しようという発想で始めることです。本来は先に制度を整備しなければなりません。グローバルタレントの採用に合わせた人事制度・評価プロセス・報酬体系・グレード設計を作る必要があります。
ジョブディスクリプション(職務記述書)も重要です。日本企業のそれはゼネラリスト的な記述が多く、スペシャリストとして何を期待しているのかが伝わりにくい。これがミスマッチの原因になります。
弊社は100年以上の歴史がある会社ですが、私が入社した時はITエンジニア採用の概念自体がなく、人事制度から作り始めました。今では50名以上の外国籍出身のメンバーが活躍しており、1年に1回はエンジニア採用に関する人事制度が変わるほどのスピードです。完璧に整えてからスタートするのではなく、まずスタートして柔軟に改善していく姿勢も大切です。

鮎川氏(スズキ):2010年頃にインド人エンジニアを日本に招いて最初にやったことは、食堂でベジタリアン対応の食事を提供できるようにすることでした。東京・西葛西のようにインド人コミュニティが集まる地域もありますが、地方ではそういった環境がない。生活面でのケアも含めて、地域を巻き込んで整備していかなければなりません。官民一体で取り組む必要があります。
若狹氏(元メルカリ): うまくいっている企業に共通するのは「失敗から学ぶマインド」があるかどうかです。インドとの連携を単なる採用活動としてではなく、自社組織をアップグレードする機会として捉えているかどうかが、大きな差になります。
もう一点。「インド人材を活用する」という言葉をよく聞きますが、視点を逆にしてほしい。インドの高度人材からすれば「この日本企業を活用しよう、選んでやろう」と見られているわけです。優秀な人材に「ここで働きたい」と思ってもらえる企業になることが先決です。そのためには、自社の立ち位置を客観的にマッピングし、インドの人材とのギャップを構造化して理解する。
ギャップを全部埋める必要はありませんが、埋めるところと折り合いをつけるところを整理する。大企業であれば事業部ごとにカルチャーが違うこともあるので、全社一律ではなく事業部単位で取り組むことも有効です。
最後に、登壇者3名から会場に向けてメッセージが送られました。
ナンダ氏(第一ライフグループ): 「言語ギャップより文化ギャップ」です。日本語を話せるインド人は多くいますが、問題はカルチャーの違いです。日本人同士なら「言わなくても察してくれる」場面でも、インド人に対しては言語化しないと伝わりません。「10歳の子どもに指示を出すような明確さで伝える」イメージを持つと、上手くいきやすいです。これは相手への敬意を欠くということではなく、伝達の明確さという意味です。
若狹氏(元メルカリ): 日本はハイコンテクストカルチャーの典型で、全部言わないことがむしろ礼儀という文化があります。一方インドでは、国内だけで公用語が22あり、必然的に全てを言語化するローコンテクストのコミュニケーションになります。まずそのギャップを認識することが出発点です。
そして「インド人材を活用する」という視点を逆にしてほしい。優秀なインド人材から「この企業で働きたい」と思ってもらえる企業に、自分たちがなれるかどうか。その問いを持ち続けることが、組織の転換点につながります。
鮎川氏(スズキ): スズキには「5ゲン主義」という行動理念があります。「現場・現物・現実・原理・原則」の5つです。とにかく自分の目で見て、感じて、経験することが最も大切です。インドへの進出を考えているのであれば、まずインドに足を運んでください。インドの学生に会って、どんな人たちなのかを自分の目で確かめてください。それが全ての出発点です。
西山(Tech Japan): 今日の登壇者の皆様からいただいたメッセージに共通しているのは、「インドから採用すれば解決する」ということではなく、これを通じて日本企業がケイパビリティを向上させる機会、組織を変革していくチャンスと捉えられるかどうかです。
まずはインドに行ってみること。弊社がデロイト トーマツと協同で運営しております経済産業省の人材交流事業も積極的にご活用ください。本日のイベントが、その最初の一歩になれば幸いです。

Tech Japanは、経済産業省が推進する 「GS-Japan Tech Talent Internship(GS-JTI)」 をデロイト トーマツ ベンチャーサポートと協働で運営しています。
IITをはじめとするインド・グローバルサウス諸国のトップ理系学生と日本企業を繋ぐプログラムで、以下の支援が含まれます。
インドを中心にバングラデシュ・スリランカ・ベトナム等のグローバルサウス諸国にて、対面の雇用促進イベントを計7回開催します。各回、日本企業約7社が参加し、現地学生200〜400名と直接マッチング。3泊4日のプログラムで大学訪問し、企業説明・ラウンドテーブルを実施します。
グローバルサウス諸国の優秀な学生と日本企業をマッチングし、インターンシップを実施します。対面(日本または対象国各地)とオンラインの2つの形式に対応します。終了後は希望に応じて本採用への移行も可能です。
航空券・宿泊費等、現地移動費の一部負担。中堅・中小企業には人材育成支援費(約2,000円/人・日)も支給されます。

※前年度の雇用促進イベントの様子
インターンの申込締切は2026年7月31日となっています。
事業へのお申込みは【こちら】