2025-12-11
インド工科大学ハイデラバード校(IITH)とは?日本企業が注目する教育水準と産学連携事例

インド工科大学ハイデラバード校(Indian Insitute of Technology Hyderabad、略してIITH)は、インドに23校設置されているインド工科大学(Indian Institute of Technology、略してIIT)の第二世代校の一つとして、2008年に設立されました。その背景には、インド政府による、インド国内外で高まる理系人材ニーズに応えるという狙いがありました。インド政府は2007年の日印首脳会談で日本に協力を要請し、IITH設立を実現させました。IITHは、日印協力の象徴とも言える存在なのです。2025年5月時点で、IITHには5000人を超える学生が集まっています。この記事では、世界が注目する国際水準の理工学教育・研究を行う大学、インド工科大学ハイデラバード校についてご紹介します。
設立年:2008年
住所:Kandi-502284, Sagareddy, Telangana, India
敷地:約2.4㎢(東京ドーム52個分)
学生数:5249人(2025年時点)
研究所そして学生、教職員を守るため、24時間365日、キャンパス内には万全なセキュリティが敷かれています。また、学生たちが快適に学生生活を送れるよう、さまざまな工夫もなされています。以下にその工夫をいくつかご紹介します。
①キャンパス内の移動
学生が広いキャンパスを短時間で移動できるよう、キャンパス内を循環するバスが運行しています。バスは、正門からホステル、病院など主要な施設を経由します。朝7時30分から23時過ぎまで、10分から30分おきの運行頻度となっています。
②急速な発展環境と産業連携
IITHではキャンパスの増築や新施設の整備が進んでおり、急速に発展するインフラ環境の中で多様な研究活動が展開されています。その一方で、産学連携にも力を入れており、スズキ・イノベーションセンターの設置をはじめ、ドローンや自動運転などの実証実験が広大なキャンパス内で活発に行われています。こうした取り組みは、研究成果を社会実装へとつなげるIITHの強みを象徴しています。
③ホステルと宿泊施設
キャンパス内で日々の生活が完結するよう、さまざまな施設が集まっています。ダイニングルームはもちろん、カフェテリアやテレビルームなど、友人と集る場所が数多くあります。他にもスーパーマーケットや病院、薬局、銀行、ジムなどがあり、スムーズで快適な学生生活を実現しています。

※インド工科大学ハイデラバード校の学食写真
日本からIITHまでのアクセスは、先ずフライトで「成田国際空港」→「タイ or シンガポール」→「ラジーヴ・ガンディー国際空港」にとアクセスするのが一般的な経路になります。フライトで約12時間、乗り継ぎに2~3時間を要するため、フライトでは約14時間30分前後の時間を必要とします。ラジーヴ・ガンディー国際空港からIITHまでの移動手段は、車かバスでの陸路となります。日本からの直行便はないですが、空港からIITHへのアクセスは悪くなく、視察などに訪れる日本企業もアクセスしやすいインフラ状況となります。
・車:約1時間15分
・バス:ラジーヴ・ガンディー国際空港(PUSHPAK空港バス)→ ガチバウリ(市バス)→ パタンチェル(パッレベルグバス)→IITハイデラバード校

※ハイデラバードの街並み
なぜ、IITHは世界から注目される大学となっているのでしょうか。IITHの大きな特徴は、その学生の質の高さにあります。入試の難易度やランキング、学位プログラムなどのデータから、その秘密を探ります。
IITは、インド国内ひいては世界の理系大学の中で、入学が最難関であると言われています。2つの試験の受験が求められ、その合格率は1%という狭き門。熾烈な教育競争を勝ち抜いた高い学力とハングリー精神を持った、理系人材が集まります。
インド政府教育省が国内の大学を対象に毎年実施しているNIRF(National Institutional Ranking Framework)においては、2025年に以下の順位を獲得しました。
・国内総合ランキング:12位
・イノベーション:6位
・エンジニアリング:7位
また、インド工科大学(IIT)グループ内ランキングでは、2023年に第8位となっており、2008年以降に設立された第二世代のIITの中ではトップの評価を得ています。このように、近年設立された教育機関ではありますが、確かな実績を重ね、いまや国内でも屈指の研究・教育水準を誇るまでに成長しています。
※参照元:National Institutional Ranking
学士プログラムでは技術学士、デザイン学士の2種類が用意されており、学生は幅広い分野の中からそれぞれの専門性を極めていくことができます。技術学士では、人工知能、生物医学工学、バイオテクノロジーとバイオインフォマティクス、化学工学、土木工学、コンピュータサイエンスとエンジニアリング、計算工学、電気工学、工学物理学、工学科学、ICデザインとテクノロジー、産業化学、材料科学と冶金工学、数学とコンピューティング、機械および航空宇宙工学と多岐にわたるプログラムが用意されています。特に、工学分野ではIITHが国内初のAI専攻を設置したとしてメディアにも取り上げられました。
デザイン学士では、プロダクトデザイン、ビジュアルコミュニケーション、インタラクションデザインの3つのプログラムがあります。修士課程では、科学、工学、リベラルアーツ、デザインの4つのプログラムが提供されています。博士課程では、人工知能、生物医学工学、バイオテクノロジー、学際プログラムセンター、化学工学、化学、土木工学、気候変動、コンピュータサイエンスとエンジニアリング、デザイン電気工学、工学科学、起業家精神と経営、グリーンコ・スクール・オブ・サステナビリティ、遺産科学と技術、リベラルアーツ、材料科学と冶金工学、数学、機械および航空宇宙工学、物理学の専攻があります。このように、学士から博士課程に至る多様なプログラムは、学問の発展と融合を重視した体系的な教育を実現しています。これにより、学生たちは国際的な研究基準に基づいて専門分野を深化させることができるのです。
IITHでは、学生と教員が夢を実現できる学びの環境を提供しています。そのために、柔軟な教育制度と最先端の研究ができる場が整えられています。また、産業連携も活発に行なっています。例えば、半導体メーカーであるルネサス エレクトロニクス株式会社が2024年から3年間にわたるIITHとの連携を締結しています。
また、特許公開数や論文数なども多くあり、そのハイレベルな学びの環境が伺えます。
特許公開数: 294以上 (2024年累計)
発表論文数: 9,239本 (2023年累計)
外部連携プロジェクト:3,538(2024年累計)
※参照元:日印産学研究ネットワーク構築支援プロジェクト
このように高い学力レベルを誇るIITHは、日本との関わりが非常に深い大学でもあります。設立当初から現在に至るまで続く日本との強い結びつきについて紹介します。
IITHに関する日印協力の歴史は、2007年8月の安倍元首相とインドのマンモハン・シン首相(当時)による日印首脳会談にて、同校への支援に合意したことに遡ります。日本式の経営や工学教育等をインドに導入することを通じて、日印協力の象徴となる一流の教育機関を設立すること、また日印間の人的及び学術的な交流を強化することを目的として設立されました。
IITHキャンパス内にある7つの建造物は、東京大学をはじめ日本の大学の教授陣を中心に設計されました。また、研究機器の調達や集中講義の実施、日本企業の短期インターンシップ研修など、その連携内容は多種多様です。現在でも、日印連携の印となるようなプロジェクトや部署が多くあります。以下にいくつか例をご紹介します。
日本とIITHとのつながりの一つに、日本とインドの学術・産業連携のための持続可能なプラットフォーム構築を目的に、2012年にJICAによって立ち上げられた日印産学研究ネットワーク構築支援プロジェクト「通称FRIENDSHIPプロジェクト(FRIENDSHIPは、The Project for Future Researchers at IITH to Enhance Network Development with Scholarship of Japan)」があります。現在は、「FRIENDSHIP2.0」という第2フェーズのプロジェクトとして、持続的な連携プラットフォームづくりが目指されています。
このプロジェクトを通じて日印連携のネットワークが強化され、IITHにとって、日本の存在はとても身近なものになっています。プロジェクトでは、日本・インド間の教員の相互派遣や、IITHの学生の日本留学派遣が行われており、130名以上の卒業生が日本の大学院に留学しました(2024年8月時点)。ここで得られた知識や経験をもとに、日本企業に就職する学生も増加しています。
こうした人的交流からスタートしたネットワーク構築が、学術・産業において、信頼関係に基づく日本・インドの共同研究や協働へと深まっているのです。
JAPAN DESKは、FRIENDSHIPプロジェクトの一環で、IITHが設置した窓口です。日本への留学や共同研究、インターンシップなど、日本に関わる全ての情報が入手できるデスクとなっています。IITHの教員、学生、日本の大学、企業、団体といったさまざまな立場の人とのやりとりがスムーズに実現できるワンストップサービスが提供されています。
このような日本に特化した情報窓口は、IITさらにはインド全土からみても稀な存在となっており、IITHがいかに日本との強いつながりを持っているかが伺えます。
IITHは、人工知能から機械・航空宇宙工学、さらにはリベラルアーツやデザインに至るまで、幅広い分野で最先端の教育と研究を展開しています。IITHの卒業生は、工学系分野で卓越した強みを持つ優秀な人材として、さまざまな業界で活躍しています。
IITHと日本は設立当初から現在に至るまで強いつながりがあります。こうした背景から、近年IITHと連携をとる日本企業が急増しています。IITHが提携を結ぶ日本企業は累計で100社以上に及びます。実際、85名のIITH在校生が日本企業でのインターンシップを経験し、210名の卒業生が日本企業に就職をしています。楽天やNTT-AT、アクセンチュア、スズキ、デンソー(採用数上位5社)といった日本企業へ多くの優秀な人材を輩出しています。
※参照元:インド工科大学ハイデラバード校 FRIENDSHIP 2.0とは
インドでの採用方法は、「キャンパスリクルートメント」と呼ばれる方式で、学生自らが企業に応募する日本の方式とは全く異なります。キャンパスリクルートメントとは、企業と学生が直接コンタクトをとるのではなく、大学の就職課を通じて募集がかけられる採用方法のことです。募集にあたっては、労働条件や募集時期などの注意事項が多くあるため、それらをクリアしなければなりません。また、キャンパスリクルートメントの特徴として選考の早さも挙げられます。選考は1日、内定も1〜2日で出すことが主流です。
IITにおいても、キャンパスリクルートメントが採用方法となっています。
こうした日本とは異なる採用方法であっても、IITHには日本企業が優秀なインド人材と出会うことができるようなイベントがあります。IITHでは毎年、JETROと共同して就職説明会「Japan Career Day」が開催されています。学部3、4年生と修士課程の学生を対象に、日本企業のプレゼンテーションや企業・学生間の交流が行われています。2025年には8回目の開催となり、毎年500人ほどの学生が集まる一大説明会となっています。
企業は、日本で働くことに関心がある学生を前に、各社の職場の雰囲気や研究内容を伝えられるチャンスとなっています。学生側は日本の労働文化を知ったり、自身の専攻分野をどう実務に活かしていけるかなど質問することができます。双方の意見や情報を交換することができ、学生と企業のミスマッチ解消につながっています。
この説明会に参加した企業がIITHの学生の採用を行う場合は、キャンパスリクルートメントの採用方法に則る必要があります。この採用方法で優秀な学生を獲得するためには、専門的な知識と交渉力を持って大学と調整する必要があります。TechJapanでは、スムーズかつ有利に採用活動を進めていけるサービスを提供していますので、ぜひご活用ください。